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HRAF(HUMAN RELATIONS AREA FILES)とは、世界の文化の比較研究を行うための方 法として、G.P.マードックらを中心とするエール大の社会科学者たちによって研究・ 開発されてきた、一種の文献データベースのことである。その特徴は、これまでに調査さ れた民族集団や社会についての文献資料が分類の上、そのまま基礎データとして収録され ている点にある。単なる梗概ではなく、原文の該当する記述がそのまま引用されているの である。このため、ある項目について調べたい場合、HRAFを参照することで原文の該 当部分をその場で読むことが可能となっている。
HRAFは地域別、または民族別に大きく編成され、さらに宗教・婚姻などの大項目を はじめとする、計716の項目に分類されている。ある特定地域について網羅的に情報を 得たい場合、ある特定の項目に関して情報を得たい場合などには特に便利である。
今回、このHRAFをもとにしたデータベースCross Cultural CDが大阪大学図書館に導 入された。現在はまだ試験的に運用している段階だが、いちいち研究室を離れずとも気軽 に検索ができるようになっている。本館にある端末の場合、MS-WINDOWS上から検索を行う のだが、このシステムでどのような使い方ができるのか、またなにができるのか、ためし に検索してみることにしよう。調べる項目は「中国のシャーマニズム」についてである。
検索画面は大きく3つの窓に分かれている。一番上の窓が検索語を入力する窓で、中段 が検索件数の表示窓、そして最下段が検索内容を表示する窓となっている。試しに"SHAMA N"(シャーマン)という語で検索してみよう。SHAMANと入力した後、【SEARCH】を左クリ ックする。大文字・小文字は区別しなくても良い。中段の窓に検索で見つかった件数が表 示され、該当データは499件あることがわかる。なお、最下段にはデータベースの内容 が表示され、ただちに内容を確かめることができる。
さて、該当件数が499というのは参照するには多すぎるので、検索をもっと絞りこん でみよう。今度は"CHINA"で検索してみると、該当するデータは195件と出た。この2つ の検索結果を組み合わせ、"SHAMAN"と"CHINA"の2語を含むデータを検索してみよう。画面 中段の窓を見ると、それぞれの検索結果ごとに#1、#2といった番号が付けられている。今 の場合、#1がSHA-MANの検索結果、#2がCHINAの検索結果をそれぞれ表わしている。#1 and #2 として検索すると、#1、#2 の双方に該当するデータのみが検索できる。該当件数は8 と、だいぶ絞りこむことができた。
ところで、検索語が"SHAMAN"だけでは"SHAMA-NISM"などの関連語を含むデータがうまく検 索できない可能性が大きい。そこで、SHAMANISM で検索してみると、176件が見つかっ た(検索番号は #3 となっている)。 次に SHAMANか、SHAMANISM どちらかを含む語を検 索する。検索番号を用いて #1 or #3 と入力し、【SEARCH】を左クリックすればよい。こ の結果、599件が見つかった(検索番号 #4)。さらに、この中からCHINAを含むデータ を検索する。#2 and #4とすれば、計19件が検索できた。
以上は検索番号を利用したやり方だが、最初から (SHAMAN or SHAMANISM) and CHINA と 検索語を指定して検索しても、同様の結果が出てくる。
このように、HRAFの検索では and検索・or検索・前方一致検索など、各種の検索で 用いる演算子を用いることができる。なお、前方一致検索とは文字どおり、語の前方が一 致する語を検索してくれるものである。例えば、SHAMAN*と、末尾に"*"を付けてやれば、語 尾がどうであろうと前半がSHAMANとなっている語(SHAMAN、SHAMANISM、SHAMANISTIC など) をすべて検索してくれる。
また、HRAFのデータはOCM『主題別分類』コードによって分類されている。たと えば「Religional Beliels and Practices」の場合だと、780:一般、781:神話学、 782:宇宙論などに分類されている。このOCMを利用して検索するのも可能であり、 コード表は小冊子などの形で印刷しておき、手近で参照できるようにする予定とのことで ある。
さて、最下段の窓には検索したデータが表示されているので、それを見てみよう。タイ トル・著者名・対象社会などの各種データとともに、該当箇所の本文も表示されれている。 画面をスクロールしていけば、全データをその場で見ることができる。 データを見てい ると、"WOLF"という名前が良くでてくるので、これを新たに検索してみよう。すると、5 1件のデータが見つかった。データを良く見ていくと、重複する本が多いのに気付く。H RAFは基礎資料となる文献から項目ごとに該当箇所を抜き出してきているため、このよ うな重複も起こりうる。また、重複の多さからして、それが中国のシャーマニズムに関す る基本的な著作の一つであると推測することができる。
実際、WOLFは『中国文化人類学文献解題』(東京大学出版会)でもその著作に高い評価 を受けている人類学者である。HRAFを用いることにより、このようにして参照すべき 文献を探し出すことができるとともに、HRAFに引用されている箇所を読むことにより、 ある程度の知識を得ることができるのである。
検索結果はそのままフロッピーディスクにテキストファイルとして保存することができ る。つまり、検索したデータを保存し、エディターやワープロで編集・印刷などをするこ とができるというわけである。保存された内容は以下のようになっていた。
No. Records Request
1 499 SHAMAN
2 195 CHINA
3 8 #1 and #2
4 176 SHAMANISM
5 599 #1 or #4
* 6 19 #2 and #5
7 51 "WOLF,-ARTHUR-P"
Record 1 of 19 - Religious Beliefs and Practices
TI: Corea: The Hermit Nation.
AU: Griffis,-William-Elliot
SOC: Society-Korea-Asia
FOC: General
TIME: 1877-1880
PUB1: New York: Charles Scribner's Sons.
PAGE: 300
DATE: 1882
TEXT: Shamanism is the worship of a large number of primitive North A
siatic tribes, having no idols except a few fetishes and some rude anc
estral images or representations of the spirits of the earth and air.
It is a gross mixture of sorcery and sacrificial ceremonies for(後略)
*印のついている検索で見つかったデータがレコードとして、すべて保存されるというわけ である。
HRAF設立の中心的人物であったG.P.マードック(1897〜1985)は、エ ール大学で社会学を専攻、Ph.Dを取得したのち、人類学に転じた人物である。彼の学 問的関心はあらゆる民族集団・文化間での比較研究をおこなうことにあった。信頼できる 民族誌資料を統計的に処理し、文化を構成する諸要素間の相関関係を統計的に検証できる ようにしようとしたのである。HRAFはこのような考えに基づき、既存のあらゆる民族 集団について知られている限りのデータを、主に人間行動の面から分類し、コード化する ことを目的として設立された。彼の主著『社会構造』(原題 SOCIAL STRUCTURE、1949)は HRAF(正確にはその前身といえる「通文化サーヴェイ」)を用いてなされた通文化的 親族研究の例であり、そこで提出された「核家族」(NUCLEAR FAMILY)の概念および用語は、 社会科学内部に留まらず、日常語としても定着した。
もっとも、このような通文化的比較研究には人類学者による批判の声も多く挙がった。 コンテキストを無視した形で項目間の比較研究を行うことが厳しく批判されたわけである。 また、分類すること自体、作成者の恣意的要素が含まれてしまうため、適切ではないとの 批判もある。
しかしながら、このような批判を承知した上で、主に文献検索の道具として使うのであ ればHRAFは極めて有用な道具になるだろう。特に電子化されたことで、従来のように 特定項目のみを検索するだけに留まらず、本文に含まれ るあらゆる単語を検索することが可能になった。それだけ、幅の広い検索が可能となった のである。また、上述したようにand/or/notなどの演算子を用いることにより、さまざま な語を関連づけて検索することもできる。自分の考えに基づいて諸要素を関連づけ、検索 することができるというわけである。要は使い方次第であり、うまく使えればそれだけ有 用な道具となりうるものなのである。
化合物・薬品類の構造式など規格化されたデータが大量に蓄積されている自然科学系の 諸分野では、データベースの利用は研究を進める上で必用不可欠のものとなっている。一 方、人文・社会科学系諸分野ではある程度データベースの普及は進みつつあるものの、そ の利用は個々の研究者・研究室単位に限られており、全体としては電子データの利用につ いての認識が低いように思われる。
人文・社会科学系の学問分野では大きく分けて以下の2形式のデータベース利用が現在 行なわれつつある。
1:項目型データベース。パソコンでいうカード型データベースに相当する。独立した諸 項目からなり、必要に応じて各項目を参照する。辞典・索引類の電子データ化に適してい る。
2:電子テキスト型データベース。『伊勢物語』など特定のテキストをそのまま電子化し たもの。著作集など、テキストとして読まれている作品の電子データ化に適している。 Cross Cultural CD(HRAF)はこれら2種のデータベースのいわば中間に位置するもの である。形式としては項目型データベースなのだが、データ内に文献資料からの引用を含 んでおり、たんなる文献索引としての利用に留まらず、簡便に原資料の該当箇所を参照す ることができる。また、Cross Cultural CD(HRAF)に限った話ではないのだが、電子化 されたデータの場合、通常、データ中に含まれるあらゆる語をキーワードとして検索対象 に指定できる。それだけ使い方の幅が広がるわけである。
インターネットなどのネットワークでは現在、各種雑誌の所蔵目録を始めとして、上述 したような電子テキスト、さらには各種学会の梗概なども電子データとして存在している。 大阪大学でも今回のCross Cultural CD(HRAF)導入をきっかけとして、今後、人文科学 系のデータベースがさらに充実していくことを期待している。
(文学部日本学講座 むらかみ かずひろ てづか けいこ)
注1 Cross Cultural CD は次の8つのデータベースに分かれており、これらを同時に 検索することもできます。
Childhood and Adolescence
Socialization and Education
Old Age
Death and Dying
Family and Social Problems
Marriage
Human Sexuality
Religious Briefs and Practices
注2 本館以外でも、生命科学分館、吹田分館で利用できます。検索ソフトとしては、 MS-WINDOWS上で動くものの他、DOS版(IBM-PC互換機)、MAC版があります。
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