【展示】LSのおすすめ本 '20

2020年7月8日

LSのおすすめ本 '20(生命科学図書館図書展示)

「初学者におすすめしたい」、「前もって読んでおけばよかった」など、LSの専門分野やこれまでの経験から皆さんにおすすめしたい本を選びました。これからの学習、研究にぜひお役立てください。

今回の展示企画は館内特設コーナーを設けません。

それぞれのリンクから配架場所・請求記号をご確認いただき、直接ご利用ください。

よく行く図書館・図書室にない場合は「予約/取寄」ボタンから取り寄せができますので、ぜひご活用ください。(学内者限定)

ブックリスト

医学系研究科M2・C(月13:00-15:00/金15:00-18:00)

科学者の研究倫理 : 化学・ライフサイエンスを中心に / 田中智之, 小出隆規, 安井裕之著
研究倫理の授業などの場で実際に有益な知識を提供することを目的に編集された教科書です。研究不正が生じる背景や、研究公正を維持するための仕組みにつき分かりやすく書かれています。統計処理の間違いなど、無知のせいで結果的に研究不正と見なされることも起こりえるので、研究倫理を説く本がこういうスタイルに落ち着いたというのも納得できます。研究室の選び方、アカハラに遭ったときの対処法、研究者としての論理的なものの考え方、不正とみなされないための統計処理の方法、そしてもちろん、不正になる・ならない論文の作成の実際など、かなり具体的で現実的なことも書かれています。また、章末には練習問題も付いておりしっかりと理解できるような工夫もなされていたので良かったと思います。
医療現場の行動経済学 : すれ違う医者と患者 / 大竹文雄, 平井啓編著
編著者のひとりは大阪大学大学院経済学研究科教授です。行動経済学の手法が医療現場でどのように使えるかの全体像が示されています。生活習慣、がん治療、救急や生命維持治療など、医療現場での具体的な問題を取り上げ、行動経済学的アプローチで解説されています。医療関係者だけでなく、患者になりうる人(=つまりすべての人)またはその家族となるのなら、読んでおいて損がないと思います。
史上最強の哲学入門 / 飲茶著 (Sun magazine mook)
一言で感想を言いますと、哲学の入門書としては「最高」です。とにかく、内容が非常に分かりやすくて、早いうちに読んでおくことをおすすめします。
論文の教室 : レポートから卒論まで / 戸田山和久著 (NHKブックス ; 1194)
哲学者による論文の書き方の指南書です。大学に入ってきたばかりの新入生にとって、最初に読むべき論文・レポートの書き方の本としては、これは最適な一冊だと思います。ストーリー仕立てになっているので、楽しく読めると思いますが、縦書きで外国人には読みづらいところもあります。
学びを結果に変えるアウトプット大全 / 樺沢紫苑著
当たり前のことを当たり前に書いている当たり前の本だと思います。そして、何か1つでもアウトプットできたなら、変わりたい自分を変えるきっかけになることと思います。

人間科学研究科M2・S(月15:00-18:00/水13:00-15:00)

環状島=トラウマの地政学 / 宮地尚子著
ぼくの研究分野では、特に対人暴力のトラウマ(心的外傷)についての理解や支援が主要テーマになっているのですが、これまでに「トラウマなんてもう考えたくない!」と思ったことが何回もあります。「その経験をしていない自分に、その経験の何がわかる?」「わかったつもりになって、余計に傷つけるんじゃ?」「自分だって、こんなにつらいのに!」「でも自分より悲惨な思いをした人がこんなにいるんだぞ!」でも、この本を読んで、そう感じるのは(自分がおかしいんじゃなくて)環状島の地形による影響かも、と楽になりました。本書は、社会の中で、被害者の家族や研究者、傍観者や加害者も含め、トラウマに関与するすべての人びとのポジショナリティ、その全体像を描いています。トラウマについて学んでいる人、トラウマに限らず、ある事柄について学んでいて自分の立ち位置に葛藤したことのある人にぜひおすすめしたい本です。
べてるの家の「非」援助論 : そのままでいいと思えるための25章 / 浦河べてるの家著 (シリーズケアをひらく)
昨年のLSさんもおすすめしている「浦河べてるの家」関連の本です。
「浦河べてるの家」は北海道の精神障がい者施設の一つで、その特色は何と言っても「当事者研究」。医者がつけた病名、専門家が定義した症状名じゃなく、自分で彼らに名前をつけて、彼らと付き合う苦労も自分たちのものにする。そこでは、三度の飯よりミーティング、弱さを絆に、公私混同も大歓迎!? 本書には、べてるのメンバーたちの研究の一部の紹介や、そこから得られるポジティブでわくわくするアイデアが集約されています。精神医療や福祉における当事者復権、「非」援助論という重要なパラダイムを理解する上でも必読だと思いますが、それだけでなく、読んでいるうちに、この本が「精神障がい者の話」ではなくなり、いくつものキーワードがまさに「あなたの人生、どう生きたいの?」と問いかけてくるような、そんな一冊です。
質的心理学 : 創造的に活用するコツ / 無藤隆 [ほか] 編 (ワードマップ)
実験や統計上な結果も重要ですが、現場にある空気やその人たちの実践、現象のなりたちを理解しようと思ったら、フィールドに出て観察する、話を聞く必要があるかもしれません。心理学でも、「数量化される結果だけが真実だ」という時代から、徐々に質的なデータの価値やそれらを混合する方法(トライアンギュレーション)の必要性が認められてきたといえるでしょう。本書は、質的心理学の基本的な考え方、これまでに蓄積されてきた方法や研究者たちによる実践的なコツについて、丁寧に説明されています。複数の研究者が分担執筆をして、細かく章分けされているので、読みたいところだけ読むこともできます。質的研究に関心のある人、これから質的研究法で研究を行う方にとって、役に立つと思う一冊です。
対話のレッスン / 平田オリザ著
今日いたるところで「対話による解決」「対話による学び」等を謳われることが多いですが、本書を読んで、自分や世の中がいかに「対話(dialogue)」できないのかにショックを受けました。それと、発行年が19年も前(書かれたのはもっと前から)にもかかわらず、まさに今のことを書いているじゃん!という驚きも。「対話」とは何か? 「会話」や「議論」と何が違う? なぜわたしたちは「対話」しない? どうやって「対話」できる? 劇作家・演出家である筆者が、演劇や言葉遣い、時事や歴史等々、さまざまな事柄を取り上げながら、読みやすくも深い記述によって、コミュニケーションの本質に迫っています。対人援助の分野はもちろん、自分とは違う価値観の人とは分かり合えないわ、と諦めたり悩んだりしている人におすすめしたい一冊です。
平成オトコ塾 : 悩める男子のための全6章 / 澁谷知美著 (双書Zero)
「男性」として生きることって、本当に楽なんでしょうか? ぼくはかなり苦戦しながら、どうやったら楽に生きられるか日々模索中ですが、ジェンダーや性のことを学んだり話し合ったりしたいのに、どうも「責められている」感覚や居心地のなさに息が詰まることもありました。本書は、読んでいてそんな気持ちに苛まれなかった本のひとつです。本書では、「男性の性の歴史」の研究者である筆者が、男の友情、「守る」こと、非モテ、暴力、包茎、性風俗の6つの難問を、痛快だけど繊細な語り口で分解し、これからの生き方についての(重要:啓蒙ではなく)提案を示しています。読みながら、自分が「思いこみ」や「こうあるべき」にとらわれている気づきや、ことなる選択もできそうだ!というパワーが得られました。学部・性別に関係なく、だれにでもおすすめしたい一冊です。

医学系研究科保健学専攻D1・L(水15:00-17:00/木15:00-18:00)

国際保健医療学 / 日本国際保健医療学会編集 ; 石井明 [ほか] 編集委員
国際保健医療学の入門書です。様々なトピックについて、グローバルな保健医療の面でどのように活用され、どのように実践されたか、途上国においてどのような課題があるか、などを紹介した本です。保健学専攻の学生に限らず、今後留学して保健医療を勉強したい方、国際的組織で働きたい方にも役立つでしょう。テーマごとに分かりやすく書かれているので、入門編として入っていきやすいです。
学会・論文発表のための統計学 : 統計パッケージを誤用しないために / 浜田知久馬著
医学系論文を読む時、論文の中で出てくる検定や分析の結果をよく理解し、モデルの欠点までも評価できるようになりたい、あるいは、自分が論文を書こうとする時、何のためにこのような分析を選んだのかを把握したいなら、この本は役に立つと思います。親しみやすい事例を使って統計の基礎や本質を説明した本なので、皆さんの今までの曖昧な理解を補強できます。医学研究で統計を扱う人には、初級から中級への橋渡しに相応しいと言われる本です。読む前に、基本用語の概念を身につけてから読むとよいです。また、統計パッケージを誤用しない技能は研究者として重要なので、今後の学習や研究のためにも、早めに身につけたほうが良いと思います。
展開図でわかる「個」から「地域」へ広げる保健師活動 / 守田孝恵編著
保健師課程の学生の数が多くなっていることを踏まえ、保健師の実務に関する本を紹介します。保健師は日本では比較的新しい専門職なので、どのような活動をしているかを十分に実感していない方もいるでしょう。この本では、保健活動の「個」のレベルにあたる「家庭訪問」「健康教育」「健康相談」等の保健活動について、典型的事例とともにわかりやすく説明しています。また、「社会」レベルでの保健師の視点もこの本で書かれています。保健師としての活動の実態を把握できる本なので、保健師志望の方、保健師教育課程に入りたい方にはおすすめです。
社会的健康決定要因 : 健康政策の新潮流 / マイケル・マーモット, リチャード・G
公衆衛生、社会医学、予防医学などの領域の基本文献のひとつで、公衆衛生にかかる知識、実践、研究を網羅した一冊です。ライフヒストリー、交通、ソーシャルサポート、住宅、仕事など、多くの生活場面における医療や健康の課題をトピック別に書いてあります。知識の獲得、研究課題の選択、保健医療の実務など、学術上、実践上にも参考になります。複雑な用語や解析を用いておらず、また、我々の日常生活に深く関わる問題を扱っているため、読みやすくなっています。医療系ではなくとも、他の分野において医療・健康に関心がある方は、ぜひ読んでみてください。
3・11大震災と公衆衛生の再生 : 宮城県の保健師のとりくみ / 村口至, 末永カツ子編著
自然災害は公衆衛生上大きな困難をもたらし、医療健康実務はどのような価値や支持ができるかを研究する研究者も増えていて、相応の政策も議論しつつあります。保健師は地域住民に最も近い存在であるので、自然災害が起きた時、保健師の対応が期待されます。この本は東日本大震災後、どのような活動を行ったか、どのような役割ができたかについてまとめています。また、著者の経験した事例を紹介しており、読みやすく、見聞も広げられるので、この本を読んでおくことは意味があるかと思います。
フレイル : 超高齢社会における最重要課題と予防戦略 / 葛谷雅文, 雨海照祥編
超高齢社会に入った日本では、病気の予防以外にも、「フレイル」、いわゆる「高齢による衰弱」の予防も重要となっています。「フレイル」の予防により、要介護の予防や健康寿命の延長が期待できます。この本は、「フレイル」の歴史の紹介をはじめ、栄養、認知症、慢性病など多くの疾患との関連、さらに福祉政策など、色んな角度から解説しています。医療、老年医学、福祉等の分野に携わる学生や実務者、高齢者医療に興味がある方にはおすすめです。