大阪大学図書館報 第59巻第1号(通巻202号), 2026.3

研究開発室教員紹介
「研究データ管理と人材育成に関する取り組み―研究開発室における実践―」

大阪大学 附属図書館
 研究開発室 ヴルガリス・ニコラオス

1. はじめに

私は2025年2月に、大阪大学附属図書館研究開発室の特任研究員として着任しました。研究開発室は、大阪大学全体および附属図書館における教育・研究支援活動に関する諸課題を対象として研究開発を行います。私の着任は当初から、研究データ管理(Research Data Management, RDM)および研究データ基盤の強化を目的とした国レベルおよび学内の取組みと密接に結びついたものでした。

主な役割としては、「AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業」*に参画し、研究データ管理、研究データ基盤、ならびに教育的取組みの分野を中心に貢献してきました。実際の業務は複数の領域にまたがっており、研究データの管理および流通を支える基盤整備、コアファシリティ機構と連携した分野特有の研究機器および研究データ管理ワークフローへの対応、さらに研究データおよびオープンサイエンスに関する教育教材の開発などに携わっています。これらの活動の範囲は時間とともに広がり、現在では研究データ管理に関する国内外の連携も含むものとなっています。

私の学術的なバックグラウンドは、がん生物学、原子力工学、ならびに放射線物理学にありますが、これまでの研究活動では、粒子シミュレーション結果や多様な形式・分野にわたる実験計測データなど、幅広い研究データを扱ってきました。こうした経験を通じて、国や研究室、分野を越えて共通する研究データ管理上の実践的な課題について理解を深めてきました。これらの課題は研究者のみに限られるものではなく、学生、技術職員、教員など、それぞれ異なる立場で研究データに関わる多様な人々に及ぶものです。このような視点から、研究データ管理においては、研究データライフサイクルの各段階に関わるすべての関係者のニーズを踏まえた適切な教育と支援が不可欠であると考えるようになりました。

本稿では、研究環境の多様化が進む中で、データの移送、メタデータ付与、整理、ならびに長期的な利活用を含む研究データ基盤の重要性について明らかにすることを目的とします。現代の研究では、使用される研究機器、解析手法、分野ごとの研究文化の違いに応じて、形式や性質の異なる多様な研究データが生み出されており、研究データ管理は複雑であると同時に不可欠な要素となっています。こうした課題に対応するためには、技術的な解決策に加え、継続的な教育や国際的な連携が求められます。特に、AIを活用した研究やオープンサイエンスが進展する現在において、その重要性は一層高まっています。本稿では、このような視点から研究開発室における自身の取組みを振り返り、研究データエコシステムの中核としての大学図書館の役割について考察します。

2. 実験系研究における研究データとその課題

これまでの修学およびインターンシップを通じて、ギリシャ、英国、日本において、細胞イメージングデータをはじめ、放射線検出器データ、粒子シミュレーション結果、PET/CTに代表される医用画像データ、質量分析データなど、分野特有・装置特有の形式を含む多様な研究データを扱ってきました。これらの分野に共通して、データ量の増大、ファイル形式の多様性、メタデータの不足や不統一、長期保存への対応、ならびに安全性やアクセス制御に関する課題が繰り返し顕在化してきました。

研究データ管理自体は、私が関わってきたすべての研究室において、何らかの形で既に実践されていました。しかし、その運用は必ずしも体系化されておらず、研究室ごとの慣行や担当者の経験に依存している場合も少なくありませんでした。そのような状況において、本学附属図書館および研究開発室が作成に関わった「オープンサイエンス時代における研究データマネジメント基礎」1)のような、構造化された教材は非常に有効です。この教材は、学生、研究者、支援人材に共通の基礎知識を提供し、既存の実践をより明示的で、移転可能かつ持続的なものへと発展させる力があると実感しています。

3. 研究開発室における具体的な取組み

私の学術的な専門分野は主に原子力工学ですが、研究開発室における現在の研究の中心は、研究データ管理に関わる人材育成の推進にあります。特に、研究データ基盤の整備、教育、連携を一体的に進めることを目的とした「AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業」に関連する活動と密接に関わりながら、研究データ管理に関する実践的な取組みを進めています。

研究開発室の神崎隼人助教、D3センターの甲斐尚人准教授と連携し、研究データ管理教育に関わる取組みを進めています。研究データ管理基礎編教材では、学習ログ、視聴データ、アンケート結果などを用いた学習分析に基づき、学習者がつまずきやすいポイントを把握し、教材改善に活かしています。

また、内容改善に加えて、研究データ管理に関する教育教材の開発、実装、翻訳、ならびに国際的な展開にも携わっています。代表的な例として、研究データ管理基礎編教材2)は、機関を越えた再利用や多様な学習環境への適応を想定して設計されています。これらの教材は、前述のとおりマイクロコンテンツとして構成されており、研究データ管理に関する主要なトピックを短時間で学習できる動画教材として提供されるとともに、関連資料も豊富に含んでいます。さらに、PPT、PDF、MP4といった複数の形式で、日本語・英語の両言語版を大阪大学学術情報庫OUKA3)上に公開しています。これらの取組みを通じて、学内外を問わず、より多くの人が研究データ管理教育にアクセスできる環境づくりに貢献しています。

国レベルでは、「AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業」の一環として、国立情報学研究所(NII)と連携し、研究データ基盤および研究データ管理人材の育成に関する取組みを進めています。また、研究データ管理に関するガイドライン教材を整備している名古屋大学**とも協力しており、機関間における教育内容の対応関係を整理・マッピングする取組みも進行しています。これらの連携を通じて、全国的な研究データ管理教育および支援における一貫性、相互運用性、ならびに持続性の確保を目指しています。

国際的には、ベルリン自由大学との協働を通じて、研究データ管理と人文学の双方の強みを生かした取組みを進めています。具体的には、分野横断的な対話の促進および教育実践の共有を目的として、共同ワークショップの企画を行っています。この連携は筆者らが『情報の科学と技術』4)において紹介しているとおり、研究データ管理教育の国際化や、国境を越えたベストプラクティスの共有に向けた重要な一歩となっています。さらに、この国際連携の一環として、人文学分野では、吉賀夏子教授によるデジタル・ヒューマニティーズ(Digital Humanities, DH)分野の活動と連携し、IIIF(International Image Interoperability Framework)5)TEI(Text Encoding Initiative)6)を中心としたDH教材の国際展開に関わっています。これらの教材には、プログラミングや研究データ管理の要素も含まれており、分野横断的な教育資源としての活用が進められています。一方、ドイツ側では、分野特化型の研究データ管理に関する取組みが進められており、その詳細については前述の論文4)に加え、ベルリン自由大学における心理学分野の研究データ管理関連資料7)や、ドイツ全体の研究データ管理に関するトレーナー養成のガイドライン8)において紹介されています。

教育・連携活動と並行して、コアファシリティ機構と密に連携し、研究データ基盤の整備にも取り組んでいます。具体的には、大阪大学のONION9)ストレージ環境と接続した研究データ管理システムの導入や、NASの構築・運用に関わっています。この過程では、共用研究環境において生成される大規模かつ装置由来の研究データを対象として、データセキュリティ、アクセス制御、ネットワーク構成といった実務的な課題について検討・対応を行っています。

さらに、研究データ管理を実践的に支援できる人材の育成を目的として、研究・教育支援人材を対象としたPython活用基礎研修の企画・実施にも携わっています。本研修は、データクリーニングや基礎的な分析を通じて、受講者が研究データを直接扱う経験を積むことを想定しており、データ集約型の研究環境において研究者を支援するための実践的な能力の向上を目指しています。

研究データは現在、量的な増大にとどまらず、形式や内容、解析手法の多様化により、ますます複雑化しています。適切な教育、メタデータ付与の実践、セキュリティへの配慮、ならびに長期的な管理方針が伴わなければ、価値ある研究データが将来的に利用不能あるいはアクセス不能となる可能性も少なくありません。そのため、研究データ基盤の整備、人材育成、国際連携を組み合わせた、持続的な研究データ管理の取組みが不可欠であると考えています。研究開発室では、信頼性が高く、持続可能で、オープンな研究活動を支えるため、今後もこれらの取組みに継続して貢献していきたいと考えています。

4. おわりに

本稿では、研究データ管理をめぐる実践的な課題と、それに対して研究開発室において進めている取組みの一端を紹介しました。研究データ管理を取り巻く状況は、研究手法や技術の進展とともに常に変化しており、それに対応する人材育成の在り方も、今後さらに柔軟かつ継続的に発展させていく必要があります。

大学図書館は、研究成果の集積・公開の場としての役割にとどまらず、研究データ基盤の整備や人材育成を通じて、研究活動の持続性と信頼性を支える重要な担い手であると考えられます。筆者も附属図書館の一員として、研究データ管理、教育、国際連携に関する取組みを通じ、知が循環する研究環境の構築に引き続き取り組んでいきます。

注釈

*「AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業」デジタル技術とデータ活用による研究活動の変革(研究DX)を全国的に促進するため、「ユースケースの形成、普及」「データ共有・利活用の促進」「研究デジタルインフラ等の効果的活用」を一体的に進めることを目的とした文部科学省の事業(https://www.nii.ac.jp/creded/nii_ac_jp_creded.html

**名古屋大学では、学術データ管理・公開・利活用に関する情報を集約し、webサイトで公開している。(https://rdm.nagoya-u.ac.jp/

参考

  1. 甲斐尚人, 西森哲也, 神崎隼人, 田中幸恵, 萩野理恵, 古川雅子, 末田真樹子, 石山夕記, 松野渉, 南山泰之. オープンサイエンス時代における研究データマネジメント基礎. オープンアクセスリポジトリ推進協会, 2024.(https://doi.org/10.34477/0002000502
  2. Voulgaris, Nikolaos, Kai, Naoto, Nishimori, Tetsuya, et al. Fundamentals of Research Data Management in the Open Science Era. Japan Consortium for Open Access Repositories, 2025.(https://doi.org/10.18910/101974
  3. 大阪大学学術情報庫OUKA (https://ir.library.osaka-u.ac.jp/)(参照 2026-02-05).
  4. ヴルガリス ニコラウス, 神崎隼人, 白井詩沙香, 甲斐尚人. 大阪大学における研究データ管理教育の展開と実践的人材育成の展望,ベルリン自由大学との協働に向けて. 情報の科学と技術, 2026, 76 巻, 1 号, p. 33-38.(https://doi.org/10.18919/jkg.76.1_33
  5. 吉賀夏子, 田畑智司, 甲斐尚人 他. 人文学研究者必見!研究データ管理ことはじめ : OUKAで始めるIIIF画像の公開と利活用. 大阪大学附属図書館, 2024.(https://hdl.handle.net/11094/97757
  6. 吉賀夏子, 田畑智司, 甲斐尚人, 菅原裕輝, 神崎隼人. 人文学研究者必見! テキストデータとTEIで描く新たな研究ビジョン. グローバル日本学教育研究拠点「拠点形成プロジェクト」, 2025.(https://doi.org/10.18910/101978
  7. Paßmann, Sven, Söring, Sibylle. Forschungsdatenmanagement in der Psychologie: Fachspezifisches Train-the-Trainer-Konzept (Version 2). Zenodo, 2023.(https://doi.org/10.5281/zenodo.8113417
  8. Biernacka, Katarzyna, et. al. Train-the-Trainer Concept on Research Data Management. Zenodo, 2024.(https://doi.org/10.5281/zenodo.13927614
  9. 大阪大学のデータ集約基盤ONION(https://www.hpc.cmc.osaka-u.ac.jp/onion/)(参照2026-02-05)

著者紹介

著者紹介

2025年、大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。専門は原子力工学および放射線計測。これまでに、英国においてがん生物学・がん治療学、ギリシャにおいて応用数理・物理科学を学び、実験系研究を通じて多様な研究データの取扱いに携わってきた。
2025年2月より大阪大学附属図書館研究開発室特任研究員。現在は、これまでの研究経験を基盤として、研究データ管理人材の育成、研究データ基盤の整備、教育教材の開発、国際連携を中心に、オープンサイエンス推進に関する研究開発に取り組んでいる。