大阪大学図書館報 第59巻第1号(通巻202号), 2026.3

ダイヤモンドOAと図書館出版の海外動向調査(ドイツ・オランダ出張報告)

大阪大学 附属図書館
 箕面図書館課 菊谷 智史

私は大阪大学附属図書館の職員として、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)の国際連携対応タスクフォースに参加しています。タスクフォースのメンバーとして、2025年10月初旬に名古屋大学附属図書館の職員の方と2名でドイツとオランダに出張しました。

背景

出張のテーマは、ヨーロッパにおけるダイヤモンドオープンアクセス(以下、ダイヤモンドOA)の動向に関する情報収集で、国際会議への出席と図書館への調査訪問を行いました。 オープンアクセス(以下、OA)は、大まかに言えば「研究成果をインターネット上で公開し、誰もが無料で閲覧可能な状態にすること」を指します。グリーンOAやゴールドOAなど、OAにはその実現方法によってさまざまな種類があります。その中でダイヤモンドOAは「著者にも読者にも費用がかからない学術出版モデル」を意味し、大学や研究コミュニティなどの公的または非営利機関がその出版を担います。

商業出版社による高額なAPC(オープンアクセス出版料)や雑誌購読料が課されない公平な学術出版モデルとして、近年ヨーロッパやアフリカ、ラテンアメリカなどで特に注目を集めています。一方、日本ではダイヤモンドOAについてあまりされていないように思えるため、海外での最新動向について情報収集することを主な目的としました。

国際会議への参加

CRAFT-OA Conference

今回、二つの国際会議に参加しました。一つ目は10月6日から8日にかけてドイツ・ゲッティンゲン大学で開催されたCRAFT-OA Conferenceです。CRAFT-OAはダイヤモンドOAの技術的・組織的インフラの改善を目標としたEUの3年間のプロジェクト(2023-2025)で、本会議はプロジェクトの締めくくりとして開催されました。プロジェクトの成果物に関する報告に加え、世界各国の取組など、バラエティに富んだプレゼンテーションやポスター発表が行われました。

CRAFT-OAプロジェクトでは、「Diamond Discovery Hub」(ヨーロッパのダイヤモンドOAジャーナルを集約したレジストリ)や「Publisher’s Living Handbook for Diamond Open Access」(必要に応じて更新されていく、ダイヤモンドOA実践のための生きたハンドブック)を始めとして、ダイヤモンドOA出版に役立つ様々な成果物が生み出されました。プロジェクト終了後は、姉妹プロジェクトであるDIAMASの成果物と共に、European Diamond Capacity Hub(EDCH)というイニシアティブに引き継がれます。ヨーロッパ外からでも利用できるサービスも多いので、ダイヤモンドOAの実践について学びたいときには非常に役立つと思います。

ポスター発表は、会期中のポスター掲示と、10分程度のショートプレゼンテーションの構成で、私たちもポスター発表を行いました。テーマには日本でダイヤモンドOAに近いコンテンツである「紀要」を選び、何名かの紀要編集者にインタビューし、成功している紀要の要因を考察し、ポスターにまとめました。日本の状況に興味を持った方からの質問や、プレゼンテーション終了後に今後の日本の方向性についてのアドバイスをいただき、準備は大変でしたが、発表した甲斐がありました。

本会議をとおして、ライブラリアンやエンジニアなどの様々な立場から、ダイヤモンドOAを推進し、学術情報流通の課題に取り組む方々の熱意や責任感を強く感じました。EUでは新たにALMASIプロジェクトが始まり、アフリカ・ラテンアメリカと連携してダイヤモンドOAを推進していく動きがありますので、引き続き海外の動向を注視したいと思います。余談ですが、ゲッティンゲン大学周辺の旧市街には古い建物が多く残っており、14世紀から18世紀にかけて建てられた教会や木組み家屋が残っています。落ち着いた環境の中で学問に打ち込める魅力的な街でした。

会場のPauliner Church
会場のPauliner Church
起源は1294年まで遡るらしい。
ゲッティンゲンの街
ゲッティンゲンの街

Open Science Conference

もう一つの会議は、Open Science Conferenceという会議で、10月8日と9日にドイツ・ハンブルクで開催されました(こちらに参加するため、CRAFT-OA Conferenceの最終日は参加できませんでした)。主に論文が対象であるOAに対して、研究データも含めて研究プロセスをよりオープンにしていこうというより広い概念であるオープンサイエンス(OS)に関する会議です。図書館職員、研究者、データスチュワード、アーキビストなどが参加し、27か国から200人を超える関係者が集まりました。

今回のテーマは「The intersection between Open Science and AI」で、昨今世界的に注目を集めているAIをどのように研究プロセスに活用できるか、が議論の中心でした。会議の形式は、参加者を交えたディスカッションがメインで、グループを作ってテーマについて議論したり、参加者が檀上に上がって発言したり、といったセッションが多く行われました。また、テーマに関するポスター発表もありました。

議論のテーマは、「AIの発展が研究データの品質向上につながるか」や「AIによるメタデータ作成と人間の役割」、「AI査読」などで、AIのオープンサイエンス(OS)への活用の可能性について、活発な議論が交わされました。私が参加したディスカッションでは、AIは研究の効率性を高める大きなメリットがあることが認められながらも、「出力に再現性がない」、「バイアスを増強する」といった懸念も多くの参加者から挙げられました。そうした懸念の解決策として、「分野ごとにファインチューニングされたAIモデルが必要である」、「AIに適したタスクのみ担わせるべきである」などの意見が出ました。また、ライデン大学の Erik Schultes 氏による基調講演では、研究データと AI の間に好循環を生み出すことの重要性が語られました。その実現に向けて、研究データをどのような形で流通させるべきかという観点から、FAIR原則に則った「nanopublication」というフレームワークが紹介されており、特に印象に残りました。

本会議では、現段階では未知数のAIの能力を推し量りながらも、研究という信頼性が求められる活動に、どのようにAIを活用できるか、具体的なアイデアが多く議論されていました。未知数なテーマだからこそ、自由にアイデアを出せる雰囲気があり、ディスカッションも大いに盛り上がりました(その流れで同じグループの人とランチを一緒に食べたりして、他の参加者との交流も生まれて楽しかったです)。

会場
会場
ポスター発表
ポスター発表
ハンブルク中央駅
ハンブルク中央駅
ブルワリーがモチーフのディナー会場
ブルワリーがモチーフのディナー会場
旅程中は基本的にずっと雨か曇りでした。

図書館の調査訪問

国際会議への参加とは別に、ドイツのゲッティンゲン大学、ドイツ国立科学技術図書館(TIB)、オランダのエラスムス・ロッテルダム大学を訪問し、主に図書館出版とダイヤモンドOAについて担当者にインタビューを実施しました。

日本の大学図書館ではまだ一般的ではありませんが、米国やドイツなどの海外では大学図書館が書籍や雑誌の出版を行うことが少なくありません。ニッチな分野など、商業出版に適さないテーマについても、書籍や雑誌を出版する道を提供することで、学術情報流通において重要な役割を担っています。ダイヤモンドOAは著者にも読者にも料金を課さない非営利のモデルですから、図書館出版がその担い手になることも多いです。

ゲッティンゲン大学図書館

ゲッティンゲン大学では、2003年にGöttingen University Pressが設立され、図書館がその運営を担い大学構成員向けに出版サービスを提供しています。サービス設立当初から長く関わっている担当者にお話を伺うことができました。

研究評価において出版社の威信(prestige)が過度に重視されるため、研究者が図書館出版を通じて研究成果を公表することに消極的になる傾向が、図書館出版の課題として指摘されています。ゲッティンゲン大学においても、重要な研究成果は商業出版社から出版される傾向があるとのことでしたが、「商業出版社に対する評価の根拠は非常に曖昧である」(同僚が良い出版社だと思っているだけ)、という点を強く訴えられていたことが印象に残っています。Göttingen University Pressでは、出版のスピードや質、コスト、丁寧なサービスといった実質的な価値を重視しているとのことです。また、図書館出版を継続していくことで、自ずと出版社としての評価は高まっていく、という話もされていました。

ゲッティンゲン大学図書館
ゲッティンゲン大学図書館
閲覧席は外光が入りやすく、広く開放的な印象。

ドイツ国立科学技術図書館(TIB)

ドイツ国立科学技術図書館(以下、TIB)でも、図書館出版とOAの話を伺いました。TIBは国立図書館とハノーファー大学の図書館という2つの顔を持つ珍しい図書館です。TIBではTIB Open PublishingというダイヤモンドOAジャーナル出版専門の出版局が2020年に設立されました。投稿から査読、出版まで、出版ワークフローの全てをカバーしたプラットフォームの提供や利用サポートを行っています。査読自体はジャーナルの編集者や査読者によって実施されています。国立図書館としての事業のため、ドイツ国内のすべての機関および分野がサービス対象となります。出版にかかる費用は、ジャーナル編集者や会議主催者から必要な実費を計算し徴収するモデルを採用し、タイトル数を拡大していける形にしているとのことでした。

TIBではその他にもダイヤモンドOAをサポートする取組が行われています。TIBとコンスタンツ大学のコミュニケーション・情報・メディアセンター(KIM)が開発したKOALAは、分野ごとにパッケージ化されたジャーナルや書籍シリーズに対し、複数の機関がコンソーシアムを組んで3年間の資金提供を行うダイヤモンドOAジャーナルの資金提供モデルです。TIB以外の機関もこのモデルを利用可能で、ザクセン州立・ドレスデン工科大学図書館(SLUB)ではKOALA SLUBというプログラムを提供しています。日本でもぜひ採用してほしい、とのことでした。

Diamond Funding Navigatorは、世界中のダイヤモンドOA出版物に対するコンソーシアム型資金提供(たとえばKOALA)の情報を集約したTIBのウェブサービスです(2026年1月現在はベータ版)。資金提供の取組と支援を検討する図書館などを効率的に繋ぐことで、間接的にダイヤモンドOA出版が資金提供を受ける可能性を高めることが期待されます。このように、TIBでは、ダイヤモンドOAが避けて通ることのできない「持続可能な資金確保」という大きな問題にも取り組まれています。

ドイツ国立科学技術図書館(TIB)
ドイツ国立科学技術図書館(TIB)
旅程の最終目的地。初めての晴れ。

エラスムス・ロッテルダム大学図書館

オランダでは2024年にオランダ大学図書館・王立図書館コンソーシアム(UKB)とUniversiteiten van Nederland(UNL)により「Strengthening Diamond Open Access in the Netherlands」プログラムが開始され、ダイヤモンドOAを推進しています。エラスムス・ロッテルダム大学はプログラムのLead Organizationとして中心的な役割を担っているため、アポイントメントを取り、関係者にお話を伺いました。

プログラムは3つのプロジェクトからなり、それぞれ、「1. コミュニティへの情報提供によるダイヤモンドOA分野の専門性向上(National Expertise Center for Diamond Open Access)」、「2. ダイヤモンドOA出版プラットフォームの基盤強化(Capacity Building for DOA Publication Platforms)」、「3. オランダにおけるダイヤモンドOAのモニタリング(Monitoring System for DOA)」に関する活動をしています。

1のダイヤモンドOAに関する情報提供は、資料提供やイベントを通して行っているとのことです。ターゲットは、編集者や研究者、機関出版者、インフラなどのサービス提供者、図書館員、政策立案者、資金提供者などで、幅広いステークホルダーを対象としています。

2の基盤強化は、ダイヤモンドOAのインフラ・出版事業に対する投資の国家戦略の策定を担当します。オランダにはopenjournals.nlという学術雑誌出版プラットフォームがありますが、それを国家的なプラットフォームとするかどうかなどについて議論しているとのことです。2025年12月には、本プログラムに対し、オランダ科学研究機構 (NWO)から150万ユーロの助成金の交付が決定した、というニュースもありました。この助成金により、高品質で柔軟性のあるダイヤモンドOA出版の国家インフラを構築するとのことです。

3のモニタリングは、オランダのダイヤモンドOAジャーナルのリストの作成・更新を担当し、将来的にはEDCHのDiamond Discovery Hubにデータを流すことで、効率的に広く検索可能とする予定であるとのことでした。リストを公開した後、ジャーナルの編集者に通知したところ「自分のジャーナルが載っていない」とすぐに連絡が来て、リストがより正確になったとのことです。それだけではなく、「編集者が採録の基準を知ることで、編集者がプロフェッショナルになるメリットもある」という発言が印象に残っています。

インタビュー中、ダイヤモンドOAに関して「以前はまるで”ワイルド・ウエスト”の状態だった」と形容されていました。ダイヤモンドOAに該当するジャーナルはボランティアや教員の自腹などで運営されていましたが、現在はその価値が認められてきて、プログラムやインフラが徐々に整備されてきている状況を背景に出てきた言葉です。今後どのように状況が変化していくのか、注視したいと思います。

余談ですが、今回残念ながら都合が付かなくてオランダでインタビューできなかった方がいました。少しだけお話する時間があり、「近々家族で日本旅行に行く」とおっしゃっていたので、「いつですか?」と聞いたら、なんと私たちの帰りの便と同じ飛行機ということが分かり、「もしかしたら会えるかもしれませんねー」なんて話をしていました。結局お会いできなかったのですが、帰国後にお礼のメールを送ると、「飛行機で渡したストロープワッフル(オランダの美味しいお菓子)を気に入ってくれたら嬉しいわ」と返信があり、別人を我々と勘違いして飛行機でワッフルを渡されたそうです。(別人の手に渡ったことをメールでお伝えしたら、笑っておられました。なんにせよ、家族旅行中に話しかけて、ワッフルまでくれようとしたのはありがたいことです。)

エラスムス・ロッテルダム大学図書館
エラスムス・ロッテルダム大学図書館
ロッテルダムにまつわる資料を集めたコーナー。

日本とダイヤモンドOA

ダイヤモンドOAは様々な言語や文化の研究成果公開を支えることで、書誌多様性(bibliodiversity)*を促進するとされています。実際に、グローバルサウスの国々では早い段階からダイヤモンドOAが積極的に推進されてきました。日本には、ダイヤモンドOAに近い既存のコンテンツとして「紀要」があります。紀要も、商業出版に馴染まないテーマを扱っている研究者やまだ実績のない若手研究者にとって、自身の研究成果を発表する重要なチャネルであり、その重要性が認識されています。

紀要には長く続いているタイトルも多く、一見すると安定的に運営されているかに見えます。しかし実際には、編集担当者の個々の努力に依存し、運営ノウハウや人材を個別に引き継ぎながら継続されていることも多く、横のつながりがほとんどないことが指摘されています1)。ヨーロッパでも同様の課題があり、「fragmented landscape of Diamond OA」(ダイヤモンドOAの断片化した状況)などと表現され、EDCHが解決すべき課題として取り組んでいます。日本では「紀要編集者ネットワーク」が関係者間のつながりを形成する活動を行っています。

こうした背景を踏まえると、重要な役割(と課題)を持つ紀要出版を大学図書館として支援することが、日本の大学図書館がダイヤモンドOAの推進に関わる主要な方向性の一つだと考えられます。

図書館が出版に関わる、と聞くと戸惑う人も少なくないかもしれません。出版と一口に言っても、編集・査読・組版・普及などの様々な機能が含まれています。その中の一部分だけなら図書館が担う、もしくは支援できるかもしれません。現在は大学図書館が機関リポジトリで電子媒体の学内の研究成果を公開する役割も広く定着しています。デジタル資料に適切なメタデータを付与し、発見可能性を高めるためにデータを流通させるという大学図書館の機能は、出版における「普及」の機能の一部でもあります。その意味で、図書館は既に紀要の出版に関わってきたと捉えることもできると思います。例えば、この関わりを一歩進め、編集の段階で、デジタル資料の普及や再利用に適したファイル形式について助言や支援を行うこと(例: XMLの推奨など)も、図書館の強みを生かしたサポートとして考えられます。

支援の検討に際しては、分野やタイトルごとに実際のニーズを把握することが必要です。そのため、紀要編集者と対話し、ともに課題の解決方法を探る姿勢で、図書館にできるサポートを創造し、提供していくことが最も重要だと考えます。

最後に

以上が出張の報告となります。今回の出張は準備期間が非常に大変でした。テーマに関する情報収集から始まり、コネクションがないところからのアポイントメント取得、ポスター発表の準備、旅程の計画など、締切りギリギリになることも少なくなく、関係者の方には多大なご迷惑をおかけしました。しかし、苦労した分、確かな経験を得ることができたと感じています。

オンライン参加ではなく、実際に現地へ足を運ぶことの意義も強く実感しました。最前線で活躍している人とのネットワークを築けたことはもちろん、対面での対話を通じて、文献調査だけでは捉えきれなかった現地の「温度感」を肌で感じることができました。例えば、ダイヤモンドOAに対する実際の期待値は、日本からは見えづらい部分がありましたが、実際には(商業出版社を完全に置き換えるといった)過度な期待はしておらず、既存ジャーナルの代替手段を確保する、という現実的な推進姿勢を持っていることを直接の会話で知ることができたのは大きな収穫でした。

今回の出張を通じ得た刺激と知見を糧に、ダイヤモンドOAが日本の状況にどのような形でフィットするのかを引き続き考え、より公平で持続可能な学術情報流通の実現に少しでも貢献していきたいと考えています。

参考

  1. 設樂 成実, 天野 絵里子, 神谷 俊郎. 紀要の電子ジャーナル出版における連携を目指して:紀要編集者ネットワークの挑戦と課題. 情報の科学と技術. 2019, 69巻, 11号, p. 510-515. https://doi.org/10.18919/jkg.69.11_510, (参照 2026-01-29).

注釈

*書誌多様性(bibliodiversity):出版の世界における文化的な多様性を意味する。
参考:シアラー キャスリーン, チャン レスリー, クチマ イリーナ, ムニエ ピエール, 河合 将志, 南山 泰之, 林 正治, 藤原 一毅, 尾城 孝一. 学術情報流通における「書誌多様性」の形成に向けて —行動の呼びかけ—. 国立情報学研究所 オープンサイエンス基盤研究センター. https://doi.org/10.20736/00001276, (参照 2026-01-29).