法人でない団体が民事訴訟の当事者となる訴訟の理論的解明は、民事訴訟法学上の難問の一つである。本書は、わが国が当事者能力概念を継受したドイツとの比較研究を通じて、権利能力等の実体法上の主体性概念とは別に、訴訟上の主体性概念が生成した前提条件を分析し、純訴訟法的な主体性概念の存在及びその意義を検討するとともに、その成果を踏まえてわが国の当事者能力概念とその判断構造を解明し、当事者能力論が今後進むべき方向を提示しようと試みたものである。
未決拘禁(現行制度では被疑者・被告人の勾留)は理論的な正当化根拠を持たない必要悪である。これが本書の出発点となる問題意識である。本書ではこの問題意識から出発して、国際人権法における未決拘禁規制とその影響の下で行われたフランスの制度改革を跡付けた。そして、わが国における立法課題として、勾留に代わる「手続確保処分」の導入と、勾留をした場合の事後的な代償措置(無罪の場合の刑事補償の完全補償化と未決勾留日数の本刑への全部算入)の拡充が必要であることを示した。
大阪大学博士課程教育リーディングプログラム「インタラクティブ物質科学・カデットプログラム 」を履修する大学院生が中心となって編集した物性物理に関する問題集です。学部生や大学院生向けに、物性物理学の基礎事項を問う100問が厳選され、丁寧で充実した解答例と共に収録されています。様々な専門書を読み漁らなければ遭遇できない基本的な問題から高度な問題までを網羅する質の高い100の問題を1つの書籍としてまとめたユニークな問題集です。
科学者の話す最先端科学をそのままストーリーにのせた、同名の原作(講談社)をコミック化した、おもろい「科学書」。原作者の橋本幸士教授(理学研究科)にちなみ、「パパ」の研究室や出てくる風景は阪大がモデルです。ムズカシイ最先端科学が常識を打ち破って思わぬ形で身近に浸透することを期待します。
【概要】
「異次元はなんで見えへんのやと思う?」超ひも理論が専門の浪速阪教授の娘、美咲はある日パパが異次元とひもの研究者だと知ってうろたえる。「異次元なんて、ない」と言い切る高校生の美咲にパパは1日10分、7日間で「ホンマもんの異次元を教えたろう」という。異次元をパパに習って素粒子が「ひも」やと思うとめっちゃすごいことが見えてくる?! 講義はパパの研究室で!
犯罪捜査官などの実務家に向けた理論問題の解説書として、刑法総論の重要テーマを取り挙げたものです。具体的には、それぞれの主要な論点について、現行法令の罰条や最新の判例を素材としながら、刑法総論の思考方法と結びつける形で掘り下げた検討を加えています。
近年、一部の学説(客観的帰属論や因果的共犯論など)が、過去の蓄積を無視した議論を展開することに疑問を提起する一方、一部では、具体的事案の処理に即した解答例も掲げてあります。いずれも、刑法総論の基本知識とその応用に向けた筋道を示すようにしており、現在の日本の通説・判例を踏まえた点も含めて、犯罪捜査の現場で必要となる実践的思考力を身につけることができるでしょう。
本書は、2011年度から2015年度にかけての日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(S))(23226017)「流出重油・ガスの自動追跡システムの確立と革新的海洋防災システムへの展開」の結果を纏めたものです。本書では、油タンカーや海洋プラットフォームの事故に関連する海洋防災システムの研究を取り上げています。本書の最も本質的な面は、海底からの石油とガスの吹き出し挙動のリアルタイムモニタリングのための自律型深海水中ロボットの開発、漂流油のリアルタイム追跡と監視のための新しいタイプの自律型浮遊ロボットの開発です。これらのロボットの使命は、石油やガスの挙動をより正確に予測するために、本研究で開発した油やガスの海底からのf噴出や海面上に流出した漂流油の挙動のシミュレーションモデルに、測定データで提供することにあります。
『時雨』は室町時代物語(お伽草子)に分類される物語の一つで、王朝物語的な世界をもった作品です。本書に取り上げる『時雨物語絵巻』は、永正十年(1513)の書写になる、現存する同物語の最古本にあたります。これまで、一部の研究者には存在が知られていたものの、まとまった研究は備わっていませんでした。このたび、古典文学研究者と美術史研究者からなる絵詞研究会が輪読してきた成果をもとに、釈文・現代語訳、諸本対照表、研究論文(四本)として一書にまとめて公刊することとなりました。
その本文は古態を残していると見られ、読解にあたっては難解な点もありますが、この本をきっかけに、多くの人の眼に留まり、研究が深まってゆくことになればと思います。古典文学研究者のみならず、美術史に関心のある方にも手に取ってもらいたいと思います。
文学的解説はUniversite de Paris III Sorbonne - La Nouvelle教授Catherine Crozy-Naquetにより、校本作成、言語研究、難語解、固有名詞表は大高順雄による。フランス語による古代史としては13世紀初頭から14世紀にかけて最初の世界史Faits des Romains『ローマ人の活躍』が韻文で読者向けに専らCaesarカエサルの事績を語った。ほぼ同時期にHistoire ancienne jusqu’a Cesar 『カエサルまでの古代史』がトロイア戦争を取り入れて散文で聴取者向けに作られた。これにはフランス国立図書所蔵の4写本B.N. f. fr. 254, 301, 2255, 24396が知られていたが、大手前大学所蔵写本O(前Phillipps 23240)が研究の結果、同系統の写本であることが判明したので、今回刊行されるに至ったのである。
14世には史的作品として、いくつかの作品が現れた。上記『ローマ人の活躍』は専らカエサルの事績を叙述したものであり、第1群を構成するのに対して、『カエサルまでの古代史』は第2群に分類され14世紀に編纂された。この第2群は異教の古代のみを叙述し、トロイア戦争に加わったフリギアのダリオスDares le Phrygienのラテン語の散文から12世紀にブノア・ド・サント・モールBenoit de Sainte-Maureが作成した韻文『トロイア物語』Roman de Troie に遡及する。
本文は117葉、約30,000行からなり、古代の伝承、100葉を占めるトロイアの挿話に、Ovidiusオウィディウスの『Heroides英雄の女たち』の訳、14世紀までの伝承の諸要素を挿入した散文物語である。
西欧の諸民族の故土であると同時に、模倣し、否定し、超越すべきギリシアの都市トロイアが終に崩壊する過程を叙述することにより、中世を通じて存続した古代文明に対する幻惑と同時に西欧社会の根幹であるキリスト教義に対する批判が反映されている。
3時点(1989年、2001年、2013年)にわたる小・中学生に対する学力実態調査の結果を、教育社会学的な視点から分析した著作である。中核となるテーマは、「学力格差の実態把握とその克服の筋道の探究」。タイトルを、『マインド・ザ・ギャップ』(=格差に気をつけろ!)としたゆえんである。学力調査の経年比較、学力のジェンダー差・階層差、学力形成に果たす社会関係資本の役割、授業スタイルと学力、学力と社会性との関連、学力を支える「効果のある学校」の追究などのトピックが具体的に扱われている。
本書は、2003年度から開講している5研究科共同によるリレー講義「歴史学方法論講義」(歴史学のフロンティア)で使用する教科書と教養書を兼ねた書籍である。「歴史学のフロンティア」は、5研究科プラス外部招聘講師、合わせて13名によるリレー講義であり、既成の区分を超え新しい歴史学方法論を考える授業である。本来、大学院向けの授業であるが、2012年度から学部生にも公開し、好評を得ている。
本書は、大阪大学出版会から刊行された教養書『歴史学のフロンティア―地域から問い直す国民国家史観』(2008年)、『グローバルヒストリーと帝国』(2013年)に次ぐ、3冊目の論集である。今回の書物でも、現在、世界中の歴史学界で話題となり、阪大未来戦略機構にも研究部門が開設された「グローバルヒストリー」をメインテーマに掲げた。グローバルヒストリーは、「比較」と「関係性」の二つのキイ概念を使って、地球的規模で、国境・地域を超える人類史の課題を歴史的に考察し新たな世界史の構築を目指す学問分野である。
本書では、読者に最先端の研究の具体像を提示するために、「戦争」に焦点を絞り、国境・地域と時代を超えて、戦争を、日本、アジア、欧米の諸事例をとりあげて世界史の文脈で論じた。特に本書では、阪大歴史系が実績を有する「関係史」の観点を重視し、次の三つの小テーマ(主題)を軸に戦争を論じている : (1)国際秩序・地域秩序の形成・再編と戦争―戦争を契機として新たに形成・再編された前近代の広域地域秩序(帝国体制)、近現代の国際秩序の特徴と独自性の解明 ; (2)アイデンティティ、自己認識と戦争―20世紀の「総力戦」に限らず、戦争のイメージ・記憶と自己認識の変容、戦争をめぐる歴史認識問題の発生と対応 ; (3)軍事技術の移転・人的交流と戦争―近世軍事革命や近現代の武器移転など、軍事技術を介した関係性、戦争を契機としたヒトの移動・交流の加速化。 以上の三点のいずれかを、各論で論じる。序章では、これら相互の関係・関連を明らかにする総論を展開した。
本書には、日本史関連の4つの論考が収録されている。狭義の日本史と世界史の融合、統合をめざすグローバルヒストリー研究の独自性と、読者にとっての魅力を引き出せるような全体構成を試みた。本書のように、第一次史料を組み込んで、史実に基づき、戦争を古代から現代まで通時的に論じた書物は稀である。西洋中心史観で書かれたウィリアム・H・マクニールの『戦争の世界史』(中公文庫)などとは全く異なる、アジア・日本を重視した新たなグローバルヒストリー、戦争論である。執筆者12名と章構成は、以下の通りである。
- 序章 秋田 茂・桃木至朗
- グローバルヒストリーと戦争
- 第1章 田中 仁
- 戦後70年と21世紀の東アジア ―「戦争の語り」と歴史認識
- 第2章 秋田 茂
- 冷戦とアジアの経済開発
- 第3章 中嶋 啓雄
- 太平洋戦争後の知的交流の再生――アメリカ研究者とロックフェラー財団
- 第4章 中野 耕太郎
- 第一次世界大戦と現代グローバル社会の到来―アメリカ参戦の歴史的意義
- 第5章 左近幸村
- 軍事か経済か?―帝政期ロシアの義勇艦隊に見る軍事力と国際関係
- 第6章 岡田 雅志
- 山に生える銃―ベトナム北部山地から見る火器の世界史
- 第7章 後藤 敦史
- もうひとつの「黒船来航」―クリミア戦争と大阪の村々
- 第8章 古谷 大輔
- 財政軍事国家スウェーデンの複合政体と多国籍性―コイエット家の事績を中心に
- 第9章 伊川 健二
- ポルトガル人はなぜ種子島へ上陸したのか
- 第10章 桃木 至朗
- 「戦後50年」と「戦後70年」-抗元戦争後の大越(ベトナム)における国際秩序・国家理念・政治体制
- 第11章 中村 翼
- モンゴル帝国の東アジア経略と日中交流
- 第12章 市 大樹
- 「白村江の戦い」再考
口絵(写真)15葉が故新村出先生を同時代人と共に生き生きと伝える。
- 新村出先生18?(明治年26年7月24日)。
- 結婚写真(明治33年11月10日)。
- 富士見町の波多野家にて(明治36年5月)辻善之助・波多野精一と共に。
- 留学時ベルリン写真館にて(明治40年4月至同41年3月)友人と共に。
- 東京帝国大学文科大学博言学科(明治39年7月)神田誠太郎・伊波普猶・小倉進平・藤岡勝二・上田万年・八杉貞利・保科幸一・金田一京助・後藤朝太郎・徳沢健三・橋本進吉・畠山円諦と共に。
- 京都帝国大学文科大学(大正初年夏)吉沢義則、藤井乙男・内藤虎次郎・谷本富・藤代禎輔・上田敏・島文次郎・松本亦太郎・鈴木虎雄と共に。
- 大正天皇即位大典に列席するために大礼服にて(大正4年11月10日)
- 御進講者の田中館愛橘,鈴木虎雄・辻善之助及び控えの姉崎正治、宇野哲人と共に宮内省にて(昭和8年1月18日)
- 京都帝国大学図書館長室にて(昭和10年頃)
- 退官記念講演会(昭和11年10月9日)田中秀央、成瀬清、大賀寿吉、野上俊夫、太田喜三郎、竹友藻風、黒田正利、泉井久之助、太宰施門、石田憲次と共に。
- 成城の柳田国男邸にて同氏と共に(昭和16年2月11日)
- 文化勲章受章記念写真(昭和31年11月3日)山田耕作、安藤広太郎、坂本繁二郎、村上武次郎、八木秀次氏、古畑種基と共に。
- 自宅書斎にて(昭和31年11)
- 東京帝国大学演習論文「博言学科学生 新村出 日本音韻研究史 第1学年試験論文」(明治30年6月17日提出)
- 大英博物館所蔵「天草版『伊曾保物語』」の筆者ノート3冊の第1冊首ページ(明治41年暮~42年春)。
記念論文目次
- 小林芳規 日本平安初期の訓読法と新羅華厳経の訓読法との親近性-副詞の呼応による -pp. 5-20.
- 吉野政治 翡翠の語誌 pp. 21-32.
- 山口康子 「心の鬼」続貂 pp. 33-57.
- 遠藤邦基 坊門局の表記-「とん(=とも)」「助詞「お」の場合― pp.59-76.
- 小林千草 天草本『平家物語』<鵺>の段成立考 pp. 77-99.
- 土井洋一 新村先生とキリシタン文献 -大英博物館における初回の調査- pp. 101-15
- 藤本幸夫 日本古活字版と朝鮮及び西洋印刷術-アーネスト・サトウと新村出の所説を中心に-pp. 117-35.
- 今西祐一郎 古活字版の校正 pp. 137-48.
- 浅野敏彦 明治知識人の用いた漢語-際会- pp. 149-62.
- 真田信治 【研究ノート】宜蘭クレオールの語彙覚書-身体語彙について- pp. 163-69.
- 宮部信明 デジタル広辞苑の歩み pp. 171-182.
- 狩野直禎 諸葛瑾についての一考察 pp. 183-201.
- 大高順雄 在昔対外書状攷 pp. 252 (95)-202 (145).
- 森美樹 荷風・晩年の生と死 pp. 264 (83)-253 (94).
- 玉村禎郎 和語と漢語の相補性-基本度から見た転成と借用- pp. 278 (69)-266 (81)
- 玉村文郎 ≪現代日本語における文字・文字列・符号等の考察≫ pp. 294 (53)-279 (68)
- 由本陽子 身体部分名詞と動詞の複合語について pp. 312 (35)-295 (52)
- 米川明彦 俗語の力と心 pp. 334 (13)-313 (34)
- 吉田和彦 アニッタ文書の書記のこころを読む pp. 346 (1)-335 (12)