本書は、中国大陸・台湾で収集した文書資料を解析するとともに、台湾・アメリカで収集した地理空間情報を活用して進めてきた、約10年間におよぶ共同研究の成果である。そして、本書出版の意図は、近現代中国を対象とする地形図・地籍図や空中写真などの図像の世界、また中国農村の耕地開発をめぐる意想外の世界に読者を招待しようとするものである。
近現代中国を対象に、地形図・地籍図や空中写真等の地理空間情報を用いた可視的研究は、中国における資料公開の制約もあり、歴史研究ではほぼ皆無であった。本書は台湾・アメリカに収蔵されている資料を発掘することによってその制約を乗り越え、地理空間情報を本格的に利用した近現代中国を対象とする世界最初の研究であり、20世紀前半の一個の中洲における農村開発の過程を図像で復元しつつ、一田両主制の新タイプを考察している。
また、近代東アジアの土地調査や土地制度改革に関する研究は、日本および日本の旧植民地については蓄積されているが、中国大陸を対象とするものはきわめて手薄である。本書は、中国大陸を含む近代東アジア土地調査事業の比較研究を進めるための第一歩として、1930年代に国民政府の首都・南京で実施された〈近代中国的〉土地調査・登記事業の文書資料を用い、当該事業における調査・登記システムを基礎的に復元している。
本書は、スペイン語の基礎文法を網羅的に学習することを目的とした教科書で、教室での使用のほか、自習教材としても使用できます。大学の専攻語としての授業で長年使用してきた教材を2012年に書籍化し、今年2017年に改訂したものです。この改訂版では、各課の練習問題を増やし、文法事項の説明を補足し、また、巻末に講読のための読み物を加えました。読み物は、おおむね進度に沿って書かれていますので、学習途上での理解の度合いを確かめることができます。さらに、スペイン各地を紹介する写真も大幅に増やしました。
本書は文法に特化した教科書で、動詞は直説法現在形から接続法過去完了形までを順に学習しますので、あらゆるレベルのスペイン語を理解するための実力がつくものと思います。文法説明は少し単調かもしれませんが、順に学習していくことによって、スペイン語の文法を体系的に理解できます。また、各例文と読み物を読んだ音声CDもついていますので、聞き取りや発音の練習もできます。
日本国内で年間8000件近くおこなわれている発掘調査は、これまで不鮮明なところが少なくなかった日本の古代史像を幾度となく塗り替えてきました。また、2000年以降に急増した韓国内における発掘調査もまた古代韓国の歴史像を刷新してきました。そして、日本列島から出土する韓半島系文物や人の移住痕跡、韓半島から出土した倭系遺物と、海域を越えた人や物資、情報、文化の交流が、予想以上に明らかになり、2017年現在、対外交流が果たした役割を重視することで、日本古代国家の形成や古代社会のあり方にかんする新たな歴史像を模索する研究段階となってきました。
本書は、こうした新出資料を丹念に分析し、日本の国家形成期にあたる古墳時代を対象に,この時代の土器の特質、日韓交流の展開、韓半島から日本列島へ移住した渡来人の動向、そして古墳と集落にみる変化を基礎に、韓半島系渡来文化の受容が果たした歴史的役割を解明しようとする考古学の専門書です。
少子化・待機児童問題、出産・育児休業、子供の泣き声、しつけ、、、。連日メディアをにぎわせる育児にまつわるさまざまな社会問題。それに関わる当事者の心の叫びは、統計的な調査のみで拾い出せるのだろうか。その疑問が本書の出発点である。
本書は、子供を産み、育てる「母」という立場になった女性たちの「語り」をナラティブ分析することで、出産・子育てへの「意識」、それにかかわる「環境」、参与する女性たちの「立場」を明確に描き出す。そして日本都市部や農村、英国ロンドン、米国アリゾナ州で、「母」を体験している20代から80代までのべ100名以上の女性たち一人ひとりの声に丁寧に耳を傾け、紡いでいくことで、その文化・制度の異なりがどのように結びつき、産み育てる心の環境の良し悪しにどう影響を与えるのかを白日の下にさらすことを試みている。
本書を手に取った様々な立場の人々が、次世代を育む子育て当事者が社会的孤立感や閉塞感、不安感に苛まれることなく、充実感と自己肯定感を見出せるようになるために、社会はどのように変わるべきかを考えてくれることを期待している。
日本軍および日本の植民地政府が作製した海外の地図を「外邦図」とよんでいる。本書は明治初期から日清戦争直前までの外邦図作製を追跡する。
戦争の研究では、開戦に至る経過や以後の戦闘の経過に関心が集中する。しかしそのインフラともいえる地図の準備は、短期間では不可能である。日本陸軍は台湾遠征期(1874)からアロー戦争(1856~1860)時に英仏が中国各地について作製した地図や戦史類の翻訳を継続した。また参謀本部の発足後(1879~)は数十名の将校を中国大陸や朝鮮半島に送り込んで測量を行わせ、日清戦争(1894~1895)までにその関係地域をカバーする20万分の1図のほか、10万分の1図、5万分の1図を整備した。現在ワシントンのアメリカ議会図書館地理・地図部に収蔵されている将校たちの500枚に達する手書き原図は、そのもとになったもので、2008年の発見以後調査を重ね、そのための測量にはじまり、製図・印刷までのプロセスを検討した。
このほとんど忘れ去られていた日本陸軍の情報活動を通じて、初期の近代戦の舞台裏を知っていただきたい。これによって、日本軍の情報活動の実態とともに、以後の日本の関与した戦争の舞台裏への関心が高まることを期待する。