大阪大学図書館報 第56巻第1号(通巻199号), 2023.3

子どもの本を展示する-船場図書館2年目の児童サービス-(付録・アラフォーの心を動かした絵本5選)

箕面図書館課 日高

きせつのほん1 きせつのほん2

箕面市立船場図書館は、箕面市立図書館と大阪大学外国学図書館の蔵書と機能をあわせ持つ図書館として、2021年5月に開館した。大阪大学はこの図書館の指定管理者 であり、大学の職員が、市立図書館サービスを含む館全体の運営を担っている。

「子どもにとっては、いま手に取ることのできる本が全てだ。」

大学図書館員から児童図書館員への転身、と言えばおおげさすぎるけれども、船場図書館が開館してからの2年間、子どもたちと接し、子どもの本に触れる毎日を過ごしてきた。いま何を考え、どのような視点に立って児童サービスを行っているのか。そう問われれば、答えは次の一言にまとめられるだろう。

「子どもにとっては、いま手に取ることのできる本が全てだ。」

これは極端な物言いに聞こえるかもしれない。しかし、子どもが本を探したり選んだりする様子を見ていると、むしろこう言い切ってしまう方がしっくりと来たし、そうしてひとつの視点を定めることで、工夫の余地が見出しやすくなる効果もあった。

この視点に立った船場図書館の取り組みはいくつかあるが、本稿では児童書の展示に絞って取り上げたい。決して派手なものではないけれども、子どもが新しい本に出会える可能性を広げるための工夫、また本を探す時間や手間を省くための工夫がここにあると言えるだろう。

本を掘り起こし、顔を見せる-「きせつの本」の展示-

アンパンマンやポケットモンスターの絵本、ドラえもんや『サバイバル』シリーズの学習漫画など、子どもなら誰もが知っている人気者は、放っておいてもすぐに借り出される。2年前の開館当初は、シリーズ絵本と学習漫画の棚がほとんど空になってしまう期間がしばらく続いたほどだ。

ここで人気者の周囲に目をやれば、放ったままでは借りられないかもしれないが、放っておくにはもったいない本が数多く見つかる。子どもたちが色んな本に出会える接点を増やすために、そうした良い本を掘り起こす図書展示の工夫は欠かせない。

船場図書館では開館当初から「きせつの本」の展示を続けている。おおむね月替わりで、その月の行事に関する本や、季節を感じられる本を集める。絵本が中心だが、自然や科学に関する児童書も並ぶ。図書館にやって来る家族連れには、まずこの「きせつの本」のコーナーに立ち寄る方々も多いようだ。表紙を見せる展示棚と3段のブックトラックに合わせて150冊以上。そうして月初に並べた分がどんどんと借りられていくのに応じて、毎週のように新しい本を補充する結果、月の展示冊数が300冊を超すようなこともある。

なお、この「きせつの本」は、主に図書館ボランティアの方が選んでくださっている。またこの方には、毎月第2・第4月曜日に行っている「0・1・2さい はじめてのおはなし会」の読み手も担当していただいている。本の選び方や読み方、図書館での子どもとの接し方など、日々いろいろことを学ばせてくれる、貴重なパートーナーの一人だ。

きせつのほん1 きせつのほん2

「きせつの本」の展示。柱や書架、ブックトラックには、季節に応じた飾り付けも。

置き場所の妙-中央階段下の展示-

やはり本の顔(表紙)を見せるのは有効だということで、現在、図書館2階の中央階段下の棚も、テーマ展示のために活用している。この棚には、開館当初から2022年秋頃まで、絵本の『リサとガスパール』『ペネロペ』シリーズを置いていたのだが、たいへん人気があるため常に借り出されており、単なる空き棚のようになっていることがよくあった。

2022年11月、この棚とは別の所で、福音館書店元社長の故・松居ただしさんを追悼する展示を始めた。しかし、本の選定には自信があったものの貸出が芳しくない。そこで、どこへ行っても人気者だろう『リサとガスパール』や『ペネロペ』には他のシリーズ絵本と同じ棚に移ってもらい、松居直さんの展示をこの階段下の棚に移してみることにした。その結果、これまでほとんど動かなかった展示本がすぐに借りられるようになった。やはり、本の顔を見せる展示が利用者の興味を惹くのは確かで、こういった場所を多く作っていくのが今後の課題でもある。

松居直さんの展示終了後、この階段下の棚は、館内で実施するイベントと連動した図書展示など、引き続きテーマ展示に活用している。なお最近になって、シリーズ絵本の棚に移した『リサとガスパール』と『ペネロペ』が以前ほどは借りられていないことが分かった。こうなると、遠くないうちにかつての人気者として再び掘り起こす必要があるだろうか。

階段下1 階段下2

展示「親子で読んでほしい絵本大賞」入賞作品の様子。
左:展示を開始した3月2日(木)9時。右:3月3日(金)20時。
平日の2日間で、最初に並べた本がほとんど借り出された。

親だって本選びは大変-読書感想文課題図書の展示-

さらに話を進めるため、他にも見るべき事実を付け加えたい。それは、子ども本人と同じくらいかそれ以上に、親が子どもの本を探して選んでいるということ。よって、子ども向けの図書展示は、親など周りの大人に向けた展示でもあるし、むしろ親の本探しを助けるのを主眼にした展示もあり得る。読書感想文課題図書の展示が分かりやすい例になるだろう。

毎年夏に開催される「青少年読書感想文全国コンクール」では、小学校の低・中・高学年、中学校、高等学校の5部門で20冊ほどが課題図書として選定される。箕面市立図書館では、夏休みの間により多くの児童・生徒が課題図書を読めるように、課題図書の貸出期間を通常の2週間から1週間に縮めるのが慣例になっている。実際、このコンクールに感想文を出す子どもがどれくらいいるのかは把握できていないが、課題図書には毎年かなりの数の予約が付く。最初の波に乗り遅れてしまうと、自分の手に渡るのは夏休みが終わってから、ということになる。

船場図書館が開館した2021年の夏休みは、当年度の課題図書のみを展示していた。案の定すぐにほとんどが借り出されてしまい、特に小学生向けの本は、夏休みが終わるまで棚に戻らなかったように記憶している。

これは想定が甘かったと言うべきだろうが、夏休み中、毎日のように、保護者から読書感想文におすすめの本を尋ねられて戸惑った。当時はこれに即答できるような知識も経験もなく、最初のうちはしどろもどろの対応になっていたかもしれない。そこから早い段階で、過去のコンクールの課題図書一覧を片手に相談に応じるよう切り替えた。過去の課題図書というのが安直すぎるとしても、まだ知識のない自分が適当な本を薦めるよりは何倍もまし、という判断だった。

2021年夏は課題図書一覧を使った書名の紹介に留まったので、時には、そこから所蔵状況を確認して本の置き場所を案内する必要が生じた。問い合わせ自体が多く、かつ毎回時間が掛かりがちだという課題が残った。

そこで、開館2年目の2022年夏には、当年度の課題図書だけでなく、過去の課題図書もあらかじめ10年分を抜き出して展示することにした。展示の効果はてきめんで、まず、同じ内容の問い合わせがほとんど無くなり、利用者の時間も職員の時間も大きく節約できたのは大きい。また貸出についても、小学生向けの本はほとんどが借り出される結果となった。一方で、中学生、高校生向けの本がほとんど動かなかったのは、そもそも読書感想文の宿題自体がほとんどないか、宿題が出たとしても、課題図書とは違う種類の本を選んでいるのだろうと推測している。

次の夏休みに、さらにどのような工夫ができるだろう。小学生向けの本がたくさん借りられたからという理由で、より以前の課題図書をさかのぼって展示するのは容易だ。ただし、これでは「読書感想文向けの本=過去の課題図書」という図式はそのままで変わらない。ここに新しい図式を組み込むならば、次のような展示になるだろうか。読書感想文の宿題を前にして、「子どもが自ずと読みたくなる」と「大人が安心して読ませられる」が重なるような本を、課題図書とは別に集める。それを課題図書の隣の棚に展示することで、別の選択肢として示す。課題図書と聞いただけで読む気を無くす子どももいるに違いない。そんな子どもが思わず手を伸ばしたくなるような棚があれば良いのに。

こういうことを考えるのはとても楽しい。しかし、形にするのは簡単ではない。必要なのは、日々の仕事を通じて力を蓄えることだ。先達の話を聞き、ブックリストを繰り、縦横に検索をし、子どもを見て、たくさんの本に触れる。こうして溜め込んだ力を解き放つように、今後も新しい工夫を生み出していきたいと考えている。

付録・アラフォーの心を動かした絵本5選

毎週の購入候補選定、読み聞かせや対面朗読など、子どものための絵本選びを日常的に行っている。付録として、もうすぐ40歳になるアラフォー大学図書館職員の心を動かした、大人も楽しめる絵本5冊を紹介したい。

1.『ぶたのたね』佐々木マキ作 絵本館 1989年

ぶたのたね

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ぶたよりも走るのが遅いおおかみがいた。ぶたに逃げられて泣いているおおかみに、通りがかりのきつねはかせがピンクの粒を渡す。土に埋めるとぶたの実がなる「ぶたのたね」らしい。おおかみは、いぶかしがりながらも「ぶたのたね」を埋めて世話をする。1週間後の朝、ぐんぐん伸びた木には、何匹ものぶたがぶらさがっていた。はたして、おおかみはぶたを捕まえることができるのか。大方の予想通り、おおかみはぶたを取り逃がしてしまうのだが、その取り逃がし方が突拍子もなくて笑いを誘う。

なお、『ぶたのたね』シリーズは2019年までに本作を含めて4作出ている。おおかみが「ぶたのたね」をもらうものの、チャンスを活かせず取り逃がしてしまうというプロットは全く同じで、どんな風に失敗するのかを楽しんで読めるのが良い。本作に続く『また ぶたのたね』『またまた ぶたのたね』『あやしい ぶたのたね』もお薦めしたい。

2.『からすのてんぷらやさん』かこさとし作 偕成社 2013年

からすのてんぷらやさん

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同じ作者の『からすのパンやさん』(1973年)は、長く読み継がれてきた有名な絵本。しかし2013年に、続編となる4作が同時に出ていたのを知る人は案外少ないかもしれない。どの続編も、からすのパンやさんの子どもたちがそれぞれ活躍する話で、『からすのおかしやさん』『からすのやおやさん』『からすのそばやさん』、そして『からすのてんぷらやさん』の4作がある。

とりわけ『からすのてんぷらやさん』が印象深いのは、てんぷらやさんが火事で全焼する場面からお話が始まるという衝撃ゆえだろう。てんぷらやさんの主人は無傷だったものの、一人息子は目を怪我してしまい、おかみさんにいたっては行方不明という絶望的な状況にある。そこにお見舞いにやってきた、からすのパンやさんの子ども、レモンさんとオモチくんが、てんぷらやさんの再建を手伝うことになる。てんぷらやの主人による揚げ物の授業は、読者にも分かりやすくてためになる。みんなの協力で再建がかなったてんぷらやさんには、次々に幸せな出来事が起こるのだが、それは読んでのお楽しみ。

さて、『ぶたのたね』シリーズと同様、『からすのぱんやさん』シリーズ続編もプロットはほとんど同じ。『おかしやさん』と『そばやさん』では、新製品を次々投入する多角経営が当たる様子があぶなっかしくも楽しい。

3.『はりねずみくんの ねがいごと』はらだよしこ作 講談社 2019年

はりねずみくんの ねがいごと

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以前、対面朗読ボランティアの方と話した折に、1作目の『はりねずみくんの あかいマフラー』(2018年)を読むと、そこにあるもの全てが愛らしすぎて悶えてしまうほどだと、ひとしきり盛り上がったことがある。

2作目となる『はりねずみくんの ねがいごと』も全てが愛らしく感じられる絵本だ。はりねずみくんと、友達のうさぎくん、りすくんは、きたのみずうみへピクニックに出かける。3匹はボートをこぎ出し、みずうみの真ん中に、野原でつくった花の首飾りを浮かべる。こうすると願いごとがかなうのだという。自分の願いごとを楽しそうに話すうさぎくんとりすくんの隣で、はりねずみくんはずっと黙ったまま。そして、恥ずかしさをごまかすために咄嗟に口をついた小さな嘘。恥ずかしくて言い出せなかったはりねずみくんの願いごとは読む者の胸を打つ。しかしさらに胸を打つのは、子どもが自分の犯した小さな罪を大人に打ち明けるまでのつらさ、打ち明けたあとでもなお残る申しわけなさ、そして告白できたことへの安堵が、絵本ならではのページ繰りと文章によってやさしく伝わってくる点である。

なお、3作目の『はりねずみくんの ゆきだるま』(2021年)も出版されている。

4.『の』junaida作 福音館書店 2019年

の

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この絵本のことを説明しようとすれば次のように言えるだろうか。

日本語の格助詞「の」によって名詞を延々とつなげ続けることで、一体これは何であるのかを未確定で宙づりにしたまま、読む者は単なるひとつの目(視点)に変身する。日常世界と異世界が、その異世界とまた別の異世界が、「の」でつながることで、無時間的に、完全に同時に存在していることを直観するような稀有な体験を伴う、美麗な絵本である。

こんな風に説明したから何かが伝わるたぐいの絵本でもない。冒頭、「わたしの/お気に入りのコートの/ポケットの中のお城の/いちばん上のながめのよい部屋の」。これらの一区切りずつに美しい絵が描かれており、読者は早くも3つ目の「ポケットの中のお城の」で異世界の、いや無時間の入り口に立たされている。はまる人にはとことんはまる絵本だろう。

5.『ピッツァぼうや』ウィリアム・スタイグ作 木坂涼訳、セーラー出版(現・らんか社) 2000年

ピッツァぼうや

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最後に外国作者の絵本を1冊。ニューヨーク生まれのウィリアム・スタイグ(1907年~2003年)は、漫画家としてキャリアを重ねたあと、60歳を機に子どもの本に力を入れ始めた。亡くなるまでにたくさんの絵本を残しており、日本語に翻訳された絵本も多い。

本作『ピッツァぼうや』の原題は”PETE'S A PIZZA”(ピートはピッツァ)といい、機嫌の悪くなった男の子ピートを、お父さんがピッツァに見立てて遊んであげる楽しいお話だ。ピッツァの生地であるピートの体を、こねたり、のばしたり、空中に飛ばしたり。さらにはサラミやチーズ(これらは紙切れだったりするが)まで振りかけながらおいしいピッツァに調理していく。

去る2022年12月10日(土)、3年ぶりの、船場図書館としては初めての「おはなし会スペシャル」を開催した。私は自分の出し物にこの『ピッツァぼうや』を選んだ。まずは普通に絵本を読み上げた後、人形を使って実際にこの絵本の内容を演じる、という趣向の二部構成に仕立てた。

ピッツァぼうや2 ピッツァぼうや3