図書館カウンターのウラ側(電子コンテンツ担当編)
皆さんが「図書館の仕事」と聞いて思い浮かべる業務は、カウンターでの貸出ではないでしょうか。たしかに利用者さんの目に触れる機会が多い職員はカウンターのスタッフです。しかし、カウンターの後ろにある事務室には実はもっと職員がいて、皆さんのために図書館がキチンと機能するように、それぞれが大切な役割を果たしているのです。普段は意識されることの少ないカウンターのウラ側を取材してみたいと思います。
総合図書館の事務室にやってきました。あそこに座っている職員の席には「電子コンテンツ担当」と書いてありますね。いったいどんなお仕事なんでしょうか。今回はあまり知られていない「電子コンテンツ」業務に携わる職員に話を聞いてみます。
── こんにちは。「電子コンテンツ」とはいったい何でしょう?また、電子コンテンツ担当ではどんなお仕事をしているのですか?
こんにちは。私たちがいう電子コンテンツとはデジタル化された電子ブックや電子ジャーナル、データベースなどのことです。
1990年代後半からインターネットやデジタル機器が普及し始め、それに伴い大学図書館にも電子化の波が押し寄せました。今まで紙媒体だった学術雑誌や大学紀要などの電子化が推し進められたのです。そのような世界的な電子化の潮流を受けて本学に設置されたのが「電子コンテンツ担当」。図書館の中では比較的新しい部署なんですよ!
そんな電子コンテンツ担当の主な業務は大阪大学機関リポジトリOUKAの運営を行うことです。
── 機関リポジトリOUKAとはなんですか?
OUKAは正式名称を大阪大学学術情報庫OUKA(Osaka University Knowledge Archive)と言います。大阪大学の教育研究活動から生み出される論文などの学術成果を電子的に保管・公開するための電子アーカイブシステムです。誰でも無料で論文を読むことができ、大阪大学の先生や大学院生であれば研究成果を公開する場所としても活用していただけます。また、OUKAに登録されたコンテンツの多くはOUKAのWebサイト上で閲覧・ダウンロードできるだけでなく、CiNii Reserch、Google Scholar等でも検索できるようになっています。
このような電子アーカイブシステムは本学だけでなく他大学や様々な組織が所有していて、それらを総じて機関リポジトリと呼びます。機関リポジトリを持つ日本の学術機関は876(2021 年 1 月時点)にものぼります1。日本はアメリカに次ぐ機関リポジトリ大国なんですよ。
現在、OUKAに登録されているコンテンツの総数は約8.7万件(2023年度現在)。学術雑誌論文や学位論文だけでなく、古い貴重書や研究データなど電子化された様々なコンテンツを見ることができます。これらのコンテンツをOUKAへ登録・公開し、オープンアクセス(OA)を推進することが電子コンテンツ担当のお仕事です。
── オープンアクセス(OA)とはなんですか?
オープンアクセスにも実は様々な定義がありますが、平たく言うと研究成果をインターネット上に公開し、誰もが無料で学術情報にアクセスできるようにすることです。オープンアクセス化が進むことによって、研究者は自分の研究成果をより早く広く公表することができ、また一方で学術情報を素早く入手することができます。オープンアクセスによる滞りのない学術情報の流通は、人々の情報格差解消を実現するだけでなく、学術研究の発展にも貢献しているんです。
── どのようにして膨大な資料を公開しているのか、その工程や裏側の取り組みについて知りたいです。苦労することはなんですか?
公開のご依頼をいただいた論文や貴重書のひとつひとつにメタデータを作って登録しています。メタデータとはコンテンツ自身のことを説明するためのデータのこと。論文で言うと「タイトル」「著者」「出版社」などの情報がこれに当たります。
かなり地道な作業ですが、メタデータを付与することで膨大な論文を整理し、検索する時にお目当ての情報を識別するのに役立てているんですよ。
苦労することと言えば著作権の調査や確認でしょうか。元々は有料であるものを無料で見られるようにしているので、出版者が定めた著作権ポリシーに沿ってコンテンツを公開する必要があります。著作権ポリシーは出版社によって様々なので、満たすべき条件を毎回確認しています。学術出版社は海外の会社も多く、英語で書かれた著作権ポリシーを読むのもひと苦労です。
また、古い文献など紙の資料しかない場合は本部署で電子化(PDF化)することになるのですがなかなか大変です。主に古典籍などは専門の業者に依頼し、昔の博士論文や本などは職員が1ページずつ手作業でスキャンを頑張っています。
── OUKAではどんなコンテンツが人気ですか?
『阪大生のためのアカデミックライティング入門』はレポート執筆のお供として学内外の方に幅広く利用されているようです。また、最近では生成AIが大きな話題になった際に、大阪大学社会技術共創研究センターが出した報告書『生成AI(Generative AI)の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)論点の概観 : 2023年3月版』のアクセス数が非常に多くなったことも印象的でした。
OUKAの人気コンテンツは過去のものも含めアクセスランキング、ダウンロードランキングから見ることができます。
── 大阪大学の電子化資料でイチオシのものはありますか?
個人的には古地図などの貴重書は見ていて楽しいです。西洋人が描いた17~18世紀の日本の風景や寺院は、同じモチーフでも私たちが見慣れた浮世絵での表現とはまったく違って面白いです。
OUKAで公開されている貴重書はIIIF(トリプルアイエフ)2に対応していて高精細な画像を見ることができます。細かいところまでじっくり見ることで新しい発見があるかもしれませんよ。
OUKAでは本来お金を払わないと読めない査読付き論文も公開しているので、ぜひ研究に活かしてもらえると嬉しいです。
── インタビューは以上です。ご案内、ありがとうございました。
1“日本の学術機関のデータ公開を支える「WEKO3」”. NII Today 第91号. 国立情報学研究所. https://www.nii.ac.jp/today/91/4.html, (参照 2024-02-16).
2IIIF(トリプルアイエフ)とは画像を相互運用するための国際的な枠組みのこと。高精細な画像を拡大縮小できるだけでなく、他組織のIIIF対応の画像とビューワ上で比較することもできる。