大阪大学図書館報 第57巻第1号(通巻200号), 2024.3

図書館カウンターのウラ側(外国学図書館 目録担当編)

皆さんが「図書館の仕事」と聞いて思い浮かべる業務は、カウンターでの貸出ではないでしょうか。たしかに利用者さんの目に触れる機会が多い職員はカウンターのスタッフです。しかし、カウンターの後ろにある事務室には実はもっと職員がいて、皆さんのために図書館がキチンと機能するように、それぞれが大切な役割を果たしているのです。普段は意識されることの少ないカウンターのウラ側を取材してみたいと思います。

今回は外国学図書館の事務室にやってきました。あそこに座っている職員の席には「目録担当」と書いてありますね。早速あの人に聞いてみましょう。

── こんにちは。いきなりですが、インタビューさせてください!何も分かっていなくて申し訳ないのですが、目録担当って何をするのですか?

こんにちは。インタビューは大丈夫ですが、いきなりですね(笑)
「目録」はあまり馴染みのない言葉ですよね。図書館の業務としての「目録」は、利用者が図書館の所蔵資料を見つけられるように、資料に関するデータを整備することをいいます。大阪大学附属図書館Webサイトのトップページにある「蔵書検索」の検索窓にキーワードを入れたら、阪大図書館の本などがヒットしますよね。そこで検索できる本のデータを整備しています。

── そうなのですね。具体的にはどのような作業をしているのでしょうか?本のタイトルを入力するとかですか?

タイトルなどのデータの入力もしますが、いきなり入力することはせずに、まずは他の図書館が既に同じ本のデータ(書誌)を作成していないかを検索して確認します1。もし見つかればそれを流用させてもらいます。既にどこかの図書館が作成済みのことも多いので助かります。
見つからない場合は、自らデータを入力することになります。具体的には、タイトルや著者、版情報、出版社、出版年などの情報を入れていきます。データの記録は「日本目録規則2」などのルールに則って行います。本から情報を写すだけの単純作業と思われるかもしれませんが、実はそう簡単にはいかないことも意外と多いのです。本のタイトルが表紙と本の中のページで少し異なっているだとか、実際に作業をしてみると迷うことが出てきます。迷ったときには先ほどの「日本目録規則」などで事細かに定められているルールを確認します。ちなみに、タイトルは基本的に本の冒頭にある標題紙(タイトルページ)から取ることとなっています。

整理中の図書の写真
整理中のタイ語資料

── 単純に入力するだけの作業ではないのですね。他にも難しいことはありますか?

たとえば、本に「第2版」と書いてあっても、初版から内容に変更がなさそうな場合、つまり「版」ではなく「刷(すり)」の意味で使われていそうな場合は、初版との違いの有無を調査する必要があります。「刷」だった場合は新しく書誌を作成せずに、初版と同じ書誌を使うことになるからです。調査した上で、まだ判断に迷うことも実際には結構あります。
また、本のテーマを表す分類番号を付与することも大事な仕事です。分類番号は図書館の本の背に貼ってあるラベルの番号のことですね。番号が本の内容を示していて、同じ番号の本は同じ場所に並べられるので、利用者が書架に行ったときに興味のあるテーマの本が見つけやすくなっています。これもなかなか一筋縄ではいかないことが多く、1冊の本の中で複数のテーマを扱っていることは少なくないので、書架のどこに置かれると利便性が高くなるか、他の本との関連も考慮して、悩みながら決定しています。
たとえば前に、「1900年代初頭の日米の国際交流事業での出来事について小学生向けにわかりやすく物語風に講演した内容をまとめた資料」が届いたのですが、番号を外交の歴史としてとるのか、教育としてとるのか、はたまた文学としてとるのか、うんうんと悩んだのを覚えています。

── 思ったよりも奥が深そうな世界ですね。ちなみに外国学図書館の目録を担当されていますが、日本語以外の資料も扱うのですか?外国語学部には25の専攻語がありますが...

はい。外国学図書館では各専攻語のために様々な言語の資料を集めているため、それらの資料の目録もとらなくてはいけません。日本語と英語を除く23の専攻語について、毎年何言語かの本を集中的に収集するプロジェクトを2009年から続けていて、関連する展示も行っています。(新着専攻語図書展示)
専攻語数が多く、各言語に専門の職員がいるわけではないので、言語によっては目録をとるのが難しいことがあります。特にタイ語やペルシア語などの特殊な文字を使用する言語については、データの読み取りや入力自体が難しいので、学生のアルバイトや教員に手伝ってもらっています。もちろん、文字の形や読み方のルールなど、目録をとる上で最低限の言語に関する知識は学びますけど。
また最近ではスマホカメラで文字を写すと、文字認識・翻訳までしてくれるアプリがあるので、テクノロジーの活用も重要だと感じています。

── 外国学図書館ならではという資料が多数あると思いますが、その中でも特に印象的だったものは何ですか?

古いアラビア文字の資料は装飾にこだわって作成されていて、個人的には印象に残るものが多いです。タイトルページにはよく草花の模様(アラベスク模様)が描かれていて、非常に綺麗なのですが、文字がそれに溶け込んでいるため、文字の識別がしづらく目録担当者泣かせの側面もあります。

アラビア文字資料のタイトルページ写真 アラビア文字資料の本文写真
Taṣfiyat al-mirʾāh li-tarjamat al-Mishkāh, yaʿnī, Mishkāt-i sharīf, 1907 or 1908

この本は20世紀初頭に出版されたアラビア文字で書かれたものです。装飾的に文字が配置されていて面白いのですが、眺めてみても言語や文化の知識がないと、何が何の情報か皆目検討がつきませんでした。専門の方にお伺いすると、アラビア語のハディース(預言者ムハンマドの言行に関する伝承)をパシュトー語とペルシア語に翻訳した資料のようです。中央の本文には3言語がアラビア語、パシュトー語、ペルシア語の順に書かれていて、本文の周りに斜めに配置されている文字はパシュトー語の注釈なのではないか、とのことです。アラビア文字を使う様々な言語で書かれていて、外国学図書館ならではの資料なのではないでしょうか。

── 目録をとる際に心がけていることはありますか?

誤った書誌を作成してしまうと利用者や他の図書館の目録担当者が困ってしまうので、正確性が一番大事だと感じています。先ほども少し触れましたが、目録には詳細にルールが定められていて、正確な書誌をとるために、それらをしっかり確認するようにしています。
外国学図書館では多くの言語の資料を扱いますが、ローマ字を使用しない言語には、ローマ字表記も入力することになっています。それぞれの言語にALA-LC Romanization Tableという、ローマ字への変換ルールが設定されています。たとえば、日本語の場合、「先の戦」は「saki no ikusa」と分けて書くのに対し、「男の子」は「otokonoko」として1語(複合語)扱いするなど、細かく規則が書かれています。これが言語ごとにあるのでなかなか大変なのですが、適当に入力してしまうと困る人が出てきてしまうので、できるだけルールに正確になるよう心がけています。
加えて、言語によっては入力の際におもてには表れない文字コードにも気を配らなければならなかったりもします。こう話していると、目録の仕事には規則が多分に関わっていると改めて感じますね。
その上で、利用者が資料を探すときに困らないために、便利な書誌を作成することを意識しています。具体的には、主題から発見できるよう正確な主題を設定したり、検索キーワードを増やしたりしています。

目録ツールの写真
目録のツール

── さいごに、この業務をやっていてよかったと思うときはどんなときですか?

ある意味、資料は「探せて当たり前」なので、利用者には特に存在を意識されることはない仕事だと思います。特段誰から感謝されるわけではないので、縁の下の力持ち的な心持でいます。
当館では、多様な言語・年代の資料が入ってくるので、国や年代による資料の特徴が発見できて、面白さを感じています。手のつけどころさえ分からない資料と対峙するときなどは、大きな壁に圧倒される気持ちにもなりますが...
私は言語自体を学ぶのも好きなので、色々な言語に触れられるのが基本的に楽しいと思っています。最初は馴染みのない文字でも触れているうちにだんだんと愛着がわいてきますね。

── インタビューは以上です。普段意識したことがなかった図書館の本のデータを作成する目録のお仕事、とても興味深かったです。お忙しいところ、どうもありがとうございました!


1検索には日本の大学や研究機関の図書館の多くが参加している国立情報学研究所の「NACSIS-CAT」(ナクシス・キャット)を使用。NACSIS-CATのデータはCiNii Books(サイニィ・ブックス)というWebサイトで誰でも検索できるので、欲しい資料が阪大に無いときにどこの大学が持っているかを探すときや、どんな学術書が世の中に存在しているかを知りたいときには非常に便利。

2「日本目録規則」は書誌等の作成に必要な基準や規定を定めた規則で、主に日本の図書館で使われている。